MARCH 3 ,2005

■オノデラユキ写真展
No.024
[場所] 国立国際美術館
[期間] 2005年2月5日〜4月17日
[料金] 420円(一般)



このところ写真展と言えば、ギャラリーでの小粒な―――もっと言えば、無料の―――展示ばかり見ていたのだけれど、今回は美術館での展示、「オノデラユキ写真展」だよ。残念ながらヘッドライナー(メイン企画展)ではなくて、常設展示と同時開催という扱い。「『中国国宝展』はよろしいですか?」って3回も聞かれちゃったよ。写真展だけ見に来る人ってそんなに珍しかったのかな?

オノデラは、パリを拠点に活動している写真家で、新世紀写真展、木村伊伊兵衛賞も受賞してるんだよね。「古着のポートレート」「transvest」「真珠の作り方」等、オノデラの代表作となるシリーズを約50点で概観できるってのが今回の展示だよ。会場を見渡すと、たっぷりとした空間に、各シリーズから抜き出された少数精鋭の作品が贅沢に配置されていた。見に行ったのが初日の午前中ということで、鑑賞者も少なくユックリ見ることができたね。

さて、作品として目に留まったのは、「Roma-Roma」。これは初めて見たシリーズだったね。いや、正確に言えば、過去に写真集等で見ていたかもしれないけれど、記憶に残っていなかったってこと。そんな記憶にも残らないようなイメージが気になったのは、作品に一瞥をくれて、ふとそのプレートを見たとき。「ゼラチンシルバープリント、油彩」とあってね、その「油彩」ってのがボクにもう一歩作品に近付かせたんだ。

照明の当たる角度を変えてみると、確かにプリントの上から塗っている部分が分かった。これは写真集なんかじゃ分からないのも当然だよね。面白かったのはそれが、いわゆる写真館が行っているような修正だったということ。上手く伝わるか分からないけど、例えば、木々の梢や根元に見える隙間、壁面の穴を塗りつぶしたりといった塩梅。でも本来写真館で行われるのは主題を際立たせる目的で目に付く余計なディティールを塗りつぶしたり消したりするんだけど、しかし「Roma-Roma」では別段これといった主題は見当たらない。イメージとしてはなんてことはないツマラナイ風景なだけに、油彩で手を加える理由が全く分からず途方に暮れるしかなかったんだ。

実はこの「ローマ」はイタリアのあの「ローマ」じゃないんだ。スウェーデンとスペイン、二箇所の別の「ローマ」をそれぞれステレオカメラの片方ずつのレンズに写している。

『...このふたつの場所を関係づけるものは「名前」、「ステレオカメラ」 そして「移動する私の身体」である。...ふたつの場所を繋ぐものは、ふたつの間に挟まれた光の届かないネガの暗闇かもしれない。それは同時に移動が生み出す距離でもある。写真を撮るために移動するのではなく、移動するために写真を撮るのである』

このような作家本人が言う作品コンセプトとも何らリンクしないと思われる彩色という手法。ますます分からないボクに追い討ちをかけるように、どうやらこの作品は「モノクロプリント」に彩色したものだという事実が突きつけられる。

え?ゴメンナサイ、ボク、まったく分かりませんでしたヨ。カラープリントしたものを部分的に修正したように見えましたヨ。だって、そのツヤは銀塩のそれだったし、修正部分は明らかに顔料系のマットな質感だったんだからね。全面手作業による油彩着色だったとは...正直今でも信じられないよ。ホントに?だったらあの質感の違いは何だったの?

という具合で、謎謎謎ばかり。写真に筆を加えるということで森山大道の「三沢の犬」や、村田兼一が思い浮かんだり、はたまたベンヤミンの言う礼拝的価値への回帰を目論むものなのかといったところにまで考えが及んで収拾がつかず。結果として一番印象に残った作品になったって寸法さ。

イメージとしてよかったのは「transvest」。これもまたオリジナルを直接見ないと分からない作品だよ。雑誌から切り抜いた人型のシルエットに、建築や人物、風景といったイメージがコラージュされているんだけど、これは印刷じゃ真っ黒につぶれてしまって出ないんだよね。等身大のプリントだからこそ見えるものがあるんだ。

このようにオノデラは、自らの手で焼いたプリントの前に鑑賞者が立つことを要請するような作品を好むんだよね。様々なメディアとなって氾濫してしまった「写真」に、礼拝的価値とはいかないまでも、もう一度原初的な展示的価値を復権しようという試みなのかとも勘ぐっちゃうってもんさ。

こうしてみると写真家なのか美術家なのかその立ち位置もアイマイだ。森村泰昌が美術家でオノデラが写真家、それはどこで分別されているのか。実際は、自分で言ってるからなんだろうけど、少なくともオノデラはカメラで写して印画紙にプリントした「写真」で完結させようとはしていないよね。これは単純に「写真」を素材にって言うんじゃない、もっともっと自由な位置にいるってこと。

作品点数はそれほど多くない展示だけど、色々考えさせる作品で面白かったよ。そうそう、常設展示の方も現代写真中心の展示になっているから、ぜひこちらも一緒に見て欲しいね。今回は、写真スノッブにはぜひオススメの写真展といえるけど、美しい風景とか、珍しい場面とか、艶かしい女とかそんな紋切り型のイメージのみをヨシとする人にはちょっとオススメできないかな。でも入場料が安いから見ておくのもいいと思うよ。『中国国宝展』のチケットでこちらもみることができるしさ。