MAY 12 ,2004

■原点復帰−横浜 中平卓馬展
No.009
[場所] 横浜美術館
[期間] 2003年10月4日〜12月7日
[料金] 1,000円(一般)



なにをかくそう、ボクが今年(2003年)一番見たかった写真展が今回紹介するコレ、「原点復帰−横浜 中平卓馬展」なんだ。記憶喪失をはさんだ中平のこれまでを、自ら燃やした過去のネガのうち焼失を免れたものからのプリントも含めた800点を超える展示で振り返る、横浜だろうがなんだろうが行かなきゃウソってもんだよね。

まず降り立った横浜桜木町は、駅前に店が立ち並ぶワケでもないのにいたずらに人が多く、真のヒトゴミというものを実感したね。そして「みなとみらい」というのが正式な住所だと言うことに驚きを隠し切れないまま見渡す風景は、「お金ってある所にはあるものなんだ」と妙にアダルトな感慨に耽るに十分なポテンシャルを持っていたと言っていいんじゃないかな。足元のスカスカ感がまたバブリーな空虚感をさらに増長。こんな横浜を「原点」とする中平が一体どんな展示を見せてくれるのか、美術館への案内ポスターを辿りながら期待は膨らむってものさ。

さて展示は、最近作からだんだん過去へ進む構成になっていたよ。最初の部屋はいきなりお目当ての最近作、「原点復帰-横浜」だ。天井の高い広い1つの展示室を仕切ることなく、ただ4方の壁面に掲げられただけのプリントは、全て縦位置で同じサイズ。脂汗が出そうな緊張感を醸し出すその空間は静謐そのものだったね。

でも、これが横浜なの?さっきまでボクが見ていた横浜とはまるで別の世界だよ。鳥、流れ、ホームレス、猫、植物、炎、屋根・・・どこにでもあるような景色から、望遠レンズによって一様に切り出された対象が、一枚の写真に、一つずつ主題として収まっているんだよね。極めて明確で簡潔に採取されたイメージはまさに中平の視線そのものって感じだったよ。

あ、今ちょっとイイこと言っちゃったかな。そう、この写真は中平の「視線」なんだよね。「気になる」って程じゃない、「フと」投げかけた視線の先にあるものを見つめる感じ。そこにあるもの
が誰が見てもそれと分かるように写されているんだ。

このことから、これらの写真を記憶喪失以前の中平が目指した「植物図鑑」とする向きもあるみたいだけど、それはちょっと待ってよ。

確かにあいまいさからくるポエジーはなくなったかもしれないな、でも、1写真1主題という明確性と、カラー情報、きちんと合わされたピントと絞り。これだけで「植物図鑑」としてしまうのはあまりにも短絡的というものさ。

よく見てみて。望遠レンズを使った縦位置の構図やアンダー目の露出は図鑑のそれとしてはあまりに象徴的すぎやしないかな。こういった作家としての作為や自意識が被写体に関する選択とは異なる部分で出てきているんだよね。つまり、「視線」のように見えるよう巧に操作された写真ってこと。

そしてこのような手法がメディアに絡めとられ 「中平卓馬ッポイ写真」というカテゴリーを形成することになる。これはかつて中平自身もアレブレで陥ったのと同じ構図になっちゃうんじゃないかな。


他の部屋の写真については、チョット展示の質的に見ても総じてイマイチ感があったね。

「新たなる凝視」は壁面いっぱいに貼り付けられた600枚のプリントが圧巻だよ。でもプリントがカールしてて非常に見苦しいものになっていたのは残念。展示方法は中平本人が決めているらしいんだけど...

そして、最早伝説となっている「来るべき言葉のために」の、残存ネガからのプリントだけど、期待が大きかった分だけ評価が厳しいくなるのかな。正直「こんなものか」という感じだったね。

そんな中でも「サーキュレーション」は写真日記的に撮り散らかしてる感じがよかったよ。これも原版のプリントは数枚しかなかったけど、当時の会場の様子を写した写真で再現されていたんだ。そして、これは後になって知ったんだけど、「原点復帰-横浜」前ホールの柱等に貼り付けてあったカラープリントは、中平が展示期間中に撮影したプリントを持ってきて貼っていたものみたいなんだ。展示中も段段増えていくって寸法さ。これって、まさに「サーキュレーション」の再現、だよね。

ここまで見てきて思うのは、回顧展の様相を呈していても、「provok」等の華々しかった過去がジックリ味わえるものじゃないってこと。それよりなにより最近作、そしてその次が気にかかるってこと。

モノとの出会い、関係性、投げ返される視線。これらに対する決定的な回答には程遠いんだけど、それでも撮り続ける姿勢に期待したくもなるってものさ。まだまだ、今やっと原点に復帰したばかり、これからも中平から目が離せないのは間違いないよね。



最後に、今回は中平卓馬を知らない人には分かり辛い話だったかもしれないな。中平についてはまた別の機会にじっくり話したいと思ってるんだけど、差し当たって下に参考となる資料をあげておくから、興味のある人はぜひ読んでみてよ。


※中平卓馬に明るくない方への資料
*Internet Photo Magazine Japan バックナンバー  「挑発する写真家・中平卓馬」 小原真史氏
*OCTACORE EXTRA 〜写真その他サイト 「TEXT:中平卓馬という謎」 Oni氏
*BK1 「ホンマタカシ、中平卓馬につき調査を開始する/続行する」 ホンマタカシ氏

*『なぜ、植物図鑑か』(絶版)
*『日本の写真家 中平卓馬』
*『決闘写真論』
*『histeric six NAKAHIRA Takuma』
*『美術手帖BT 2003/4』
*『ARTiT Vol.03』
*『アサヒカメラ 2003/10』
*『Esquire 2003/3』
*『木野評論 35号』
*『photographer's gallery press no.2 & no.3』