AUGUST 4 ,2004




■MAP / 佐内 正史
No.009
[出版社] 自費出版
[判型] B3変形判
[価格] 13,000円



―――みなさんこんにちは。今回の名作アルバムは、佐内正史の『MAP』を取り上げたいと思います。JINさんよろしくお願いします。

「よろしくお願いします」

――― 2003年には第28回木村伊兵衛賞も受賞した写真集ですね。まずこの辺りからうかがっていきたいと思います。

「そうですね、まず世間的には、それまでも精力的に写真集を発表し何度も候補に挙げられながら受賞を逃してきた佐内が、“ようやく”受賞したという感はあったと思います。しかし、それとは別に、この写真集は個人的に不思議な思い入れのあるものになっているんです」

―――それはどのようなものですか。

「実は、私は佐内正史の写真が大嫌いだったのです。いや、正確に言えば今もですが。生ぬるい時代と寝ている生ぬるい写真。『ほら、お前らこんなのが見たいんだろ?』という太宰治における走れメロス的な感じが鼻についてたまらないんです。ところが、この『MAP』を最初に立ち読みしたとき何か違う感じがしたのです。写真のセレクトや並び方は今まで通り狙い過ぎな感があったのですが、一枚一枚のイメージにグッと来るものがあったんですね。ただ、その時は買いませんでした。13,000円もする本など買ったことなかったですし、例え手頃な価格であっても、買うほどのことはないという感じでしたね。それでも置いている本屋に行く度に、大きく重い写真集をわざわざ函から出して何度も立ち読みしていたんですよ(笑)」

―――確かに、写真集としても高額ですよね。実際購入に至るに勇気がいる値段、それを動機づける出来事があったのでしょうか。

「出来事というほどのものではないですが、その頃佐内のウェブサイトを見る機会があって、そこでこの『MAP』の制作過程を紹介しているページがあったんですよ。それを見たことが、購入を決断させる一つの要因だったことは間違いないですね。そこからは、写真集というモノ造りへのこだわりが伝わってきたんです。そして、自費出版で1000部限定だということも知りました。さらに、近々京都に佐内がトークショーをしに来るということで、ミーハーファンに買われて売り切れてはマズイと思い、清水の舞台から飛び降りる気持ちで購入したというワケです(汗)」

―――なるほど、切羽詰まって買わざるを得なくなった(笑) ということは、時期的に考えると受賞以前に購入されたことになりますね。

「ええ、そうなります。まさかこの写真集が受賞するとは思っていませんでした。しかし受賞を知った時には、数ある佐内の写真集の中でも他ならぬこの写真集が受賞するなら納得できると思いました。それだけ、何か私のアンテナにひっかかったものが、この写真集にはあったのでしょう。そういう意味で、運命的といいますか、そんな思い入れのようなものがこの写真集にはあるんです」

―――まさに写真集との素敵な出会い、なのですね。そろそろお時間のようです。最後に一言お願いします。

「購入した写真集が評価されるのはとっても嬉しいし、素敵なことだと思います。でも受賞によって写真が変わるワケではないですよね。大切なのは、写真家と私がある1点でクロスした、その交点がこの写真集だということ。例え、それが大嫌いな写真家であってもね。嫌いな写真家の写真集を大枚はたいて買うなんて、通常ないことだと思うんです。でもそんな写真集に出会うことができたということが何よりも嬉しいし、素敵なことなんだと思うんですよ」

―――権威ある賞を受賞した写真集です。興味のある方は写真家のサイトを覗いて見るといいかもしれません。きっと受賞のワケが分かります。写真家自ら宝物と呼ぶ写真集、「MAP」 佐内正史、渾身の一冊。