――― みなさんこんにちは、名作アルバム第8回は、ベン・シモンズの『東京欲望 TOKYO DESIRE』を取り上げます。解説はおなじみJINさんです、よろしくお願いします。
「よろしくお願いします。東京○○というタイトルの写真集は、それこそ星の数ほど出されているのですが、書店で立ち読んでも正直つまらない作品が多い中、今回紹介する『東京欲望』は全てのイメージを見なければ立ち去れない程惹きつけるものがありました。まさに"見たい”という欲望を駆り立てられる作品だと思います」
――― ジャンル的には「スナップ写真」になろう思いますが、「東京」「スナップ」という本当によくあるテーマの中で、それだけ惹きつけられたポイントはどこにあるとお考えですか。
「これは、実際に見た方は皆感じると思うのですが、まず、そのページ構成ですね。まず、1ページに2枚の写真。これらは、イメージ的に"対”を強く連想させる組になっています。それを見開きで4枚という極めてシンプルな構成。見る者にも一目で理解できる単純明快な"対”の見せ方、これが関係していると思います」
――― しかし、2枚を一組というと写真集構成の基本中の基本だと思うのですが。
「そうです。でもこの写真集は他とは異なる印象を受けるんですよ。それは、徹底してその基本に忠実だという点です。本来、写真家ならば、写真の構成を練る上で、単順に教科書通りに構成することはよほどの意図がない限りないでしょう。どこか自分らしさを出してみたり、わざと逸脱してみたりするものです。しかし、この写真集はまさにピッタリ教科書通りの構成なのです。それが逆に、ある種の異質感を持たせているのだと思います」
――― その作者、ベン・シモンズなのですが、初めて耳にする名前です。
「確かに、無名といっていいかもしれませんね。10年以上前に日本に移り住んで写真家として活動しているようです。しかし、いかにも外国人から見た「ニッポン」という写真ではなく、普遍的な客観性を持って、狙った場面を鋭く切り取っています。ただ、今回の写真集は、この写真家本人が構成したわけではありません」
――― とおっしゃいますと。
「実は、写真のセレクトや構成は、グラフィックデザイナーの手によるものなのです。つまり、本書が写真家が行う写真構成とは異質なものとなっているのも当たり前だったワケですね(笑)」
――― なるほど(笑) しかし今回の場合それが大成功っだったということになりますね。
「そうですね。なかなかここまでお約束通りに構成された写真集もないと思います。意図してか、せずかは分かりませんが、“灯台基暗し”の感がありますね、写真家にとっては。良質な写真を集めて、基本に忠実に構成しただけで、これだけの写真集ができるのです。インパクトを求めていたずらに逸脱してみたり、小難しい理論をふりかざしてみたり、特異な手法を濫用したり、その挙句に肝心の写真そのものは全然ダメというのは昨今よく見かけるのですが、このような方々には是非とも一読願いたいものですね」
――― ははは、これは手厳しいご意見ですね。私もこれを機会に読んでみようと思います。では今回はこの辺で。ありがとうございました。
「ありがとうございました」
――― ひとりの外国人が見た東京です。「TOKYO」ではない「東京」。ベン・シモンズ、『東京欲望』。写真という欲望が渦巻く街。
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