NOVEMBER 5 ,2003



■MOTOR DRIVE / 平間至
No.003
[出版社] 光琳社
[判型] A5判
[価格] 2,800円(絶版)



―――みなさんこんにちは。今回の名作アルバムは、初の日本人、平間至の『MOTOR DRIVE』を紹介していきます。解説はおなじみJINさんです。JINさん、よろしくお願いします。

「よろしくお願いします。」

―――平間至というと『捨て猫みーちゃん』が有名ですが、やはりJINさんも猫を撮っているということが関係しているのでしょうか。

「いいえ、違いますね。平間氏を知ったのはNHKの『トップランナー』という番組で特集されているのを 見たのが最初です。本気で写真に興味を持ち始めた時期だったので、平間氏の名前は知らなくても、“売れっ子写真家が特集されている”というだけでビデオに撮ったことを覚えています。」

―――なるほど。確かに、あの番組では『MOTOR DRIVE』が取り上げられていましたね。

「ええ、あの動き回る撮り方が印象的で、例え照明スタッフが写真に写りこんでも気にしない、というか、その番組に出演するまで気付かない・・・それでもいい写真はいい写真なんだと提示できるのがスゴイと思いました。そして件の写真集を探すのですが既に絶版・・・そんな写真集を手に入れたのは偶然古本屋で見つけたからなんです。1,000円でホクホクでしたね(笑)」


―――では、写真集を手にした感想はどうだったでしょう。

「そうですね、最初に思ったのは“小さい”ということですね。探しているときもこんなに小さいとは思っていませんでしたから、それにソフトカバーですし、見つけたときは廉価版かと思いました(笑)」

―――内容についてはいかがですか。

「有名人、モデル、モノクロとカラーを様々に織り交ぜていますが、テンポが良く見ていて飽きないですね。手ブレやピンボケの写真もたくさん入っていますが、森山大道のような重さや荒さはなく、あくまで軽い感じに仕上がっています。ピーター・リンドバーグのブレ加減に似ているかもしれません。また、写っている被写体との距離感が近く感じるのもポイントです。自然な感じですが、撮影者の存在を忘れさせるというものとも違います、そうですね・・・“親しい友達が撮った写真”という感じでしょうか」

―――そう感じさせるのは、やはり平間氏の撮影技術なのでしょうか。

「そうですね、こうは考えられないでしょうか。例えば、上手いマンガ家の作品は読み始めてすぐにその世界に入り込むことができます、それと同じで平間の撮る写真はモデルも鑑賞者も簡単にその世界に放り込まれている。これを支えているのが写真館の息子という写真のサラブレッドである彼が持つコミュニケーション力とシチュエーション設定力なのだと思います。もちろんこれはとても大切な撮影技術と言えるでしょう」

―――先程もあったようにA5判と小さい判型ですが、イメージ的にはどうでしょう。

「確かにマッスとしてはボリュームに欠けるのですが、ブックデザインがよいので鑑賞する分には掲載イメージの小ささを感じさせません。やはり小さな判でも“断ち落とし”で見せられると気持ちよいです。この点では前回に紹介したアベドンの写真集と比較すると読後感が明らかに違います」

―――と、おっしゃいますと。

「大きい判型に詰め込まれた多数の写真と、小さい判型に一枚の断ち落としの写真では、例え掲載イメージの絶対的なサイズが前者の方が勝っていても、後者の方のイメージの方が大きく感じられるんですね。そして、その効果が写っているイメージと上手くかみ合っていると思います。切り取られたある瞬間の“前後の出来事”が伝わってくるというか、“前後の画が見える”そう感じさせる写真集ですね」

―――なるほど。しかしながら、こういう写真集が絶版とは惜しいですね。

「その通りです。出版界の事情もあるのでしょうが、良質の写真集が店頭で手に入れることができないのは残念ですね。ただ、平間氏はコンスタントにBOOKの形で写真を発表されているので、これからに期待しましょう、もっと大きい判で新『MOTOR DRIVE』が出ることをね」

―――それでは、そろそろお時間のようです、ありがとうございました。

「ありがとうございました」

―――撮る者、撮られる者、鑑賞する者、その間をモータードライブの激しいリズムで写真が行き交う。平間 至、躍動の一冊。