SEPTEMBER 8 ,2003

■光の狩人 森山大道1965−2003
No.001
[場所] 島根県立美術館
[期間] 2003年3月1日〜4月6日
[料金] 1,000円(一般)



ボクが足を運んだおすすめの展覧会を紹介していく「藝術狂時代」。第一回目は、写真家・森山大道の写真展を取り上げるよ。

実は、去年(2002年)の秋にも名古屋で行われた森山大道の写真展を見に行ったんだ。でも今回は日本で行われた森山大道の写真展では最大規模のもので約400点もの展示だ。しかも、この展覧会は全国他の会場も巡回するんだけど、島根県立美術館以外の会場では規模が縮小されての展示となるってんで、これは行くしかないと、はるばる島根県は松江まで足を運んだってワケ。

しかし高速バスでの旅は、大渋滞に巻き込まれたりして大幅な遅れ。二日続けて鑑賞しようというもくろみは破れ、翌日アタックすることになったんだ。ワクワクし過ぎて眠れない、なんてことはなかったけど、 街には、いたるところに写真展の開催を告げる《三沢の犬》のポスターが貼られていて、いやがおうにもその期待は高まるってもんだよね。

さて、ではその展示について。
まず、最初に飛び込んできたのはホルマリン漬けの胎児の写真群、《無言劇》だ。アレ・ブレ写真の旗手とよく言われる大道なんだけど、これらは産毛までハッキリと捉えられていたんだ。その産毛は観る者の目を捉えて放さなかったし、そのコンタクトの展示を見ると、一本まるごと同じ被写体で、少しづつアングルや照明を変えたコマが並んでいてある意味衝撃的だったね。そして当時の中平卓馬による文章が添えられたりなんかした日には・・・

そんな感じで、展示は初期のものから順に時代を追っていく形だったんだけど。撮影当時のプリントが多く展示されていたのも嬉しかったよ。「同じプリントなんて焼けない」と自ら公言する森山大道の写真だからこそ、リプリントなんかじゃいただけないものね。あと、作風を代表する作品ばかりじゃなくて、あまりメディアで取り上げられない作品が沢山見ることができるのも大規模展覧会の醍醐味じゃないかな。

例えば、ウォーホルばりの壁面大のシルクスクリーンなんかは今までメディアではお目にかかったことなかったし、《ポラロイド・ポラロイド》を壁3面に展示するなんてのも本格的な展示施設でないとサイズ的に無理だもんね。それに、大道の写真集は手に入りにくいものが多いんだけど、そんな写真集にさえ収められていない作品も沢山展示されていたんだ。当時雑誌に掲載されただけのものとかね。

もちろん代表作だって、質の高さをうかがわせていたよ。《三沢の犬》は原版は失われているのは知っていたけど、名古屋で見たのは、右向きで複写に複写を重ねて、粒子がつながってゴワゴワした感じになっていて、しかも目は墨で描かれたんだ。しかし、今回のは同じ《三沢の犬》でも、左向き。それにディティールがつぶれていないし、粒子はシャープだし、修正もされていないものだった。でも、どちらがよいとか、本物だとかいう話は大道の写真の前では意味をなさない論議だよ。ただ、今回の方がコピーされた回数が少ない「写真」だった、というだけのことだね。
他には、《Daido histeric》なんかも写真集としてのタイトルはよく耳にするけど、イメージ自体はあまり見る機会がない作品だよね。この頃になるとプリントは大全紙で迫力もあったし、保存状態も良かったよ。

全体を概観すると、初期は6切くらいのサイズが多くて、時代を下るのに合わせてプリントサイズが大きくなっていたね。イメージとしては、思ったよりブレ・ボケの割合は少ないということ。確かに粒子は大きくくて荒れてるようには見えるんだけど、粒子一つ一つは恐ろしくシャープだし、その粒子の大きさが変化しつつ散りばめられた様は、ヌメッとした生々しささえ感じたよ。「ヌメッとした」なんて普通は超微粒子なプリントに用いられる表現なんだけどね。

いいことばかり書いてるみたいだけど 、ひとつ気になったこともあったんだ。ブレ・ボケが少ないってさっき書いたんだけど、その代表作である『写真よさようなら』からは点数も少なかったし、その写真集のよさを伝える中心となるようなコマは展示されていなかったんだ。写真の”極北”である写真集、しかも写真集自体もレアで、webでしかそのイメージを見たことがなかったから、そのオリジナルプリントを見るのを期待していただけに残念だったね。まぁ、写真集として出版した後、本当に「さようなら」とプリントを捨ててしまって、残っていなかったのかもしれないよね。でも、一般的な写真の価値や観る者を裏切るようなその行為自体が、逆にその写真集の魅力ともなっているからスゴイんだよね。

さて、長々とレポートしてきたけど結論から言えば、図録を二冊も買ってしまうほど素晴らしい展覧会だったってこと。写真スノッブを気どるならもちろん、「写真」というものについて、すこしでも考えるところのある人はカメラを質に入れてでも見に行くべきだね。一方、写真を見るとき、そこに写っている被写体や構図の美しさにしか興味がないというアナタ。ひょっとすると楽しめないかもしれないな。でも、こういう写真もあるということは知っておいて損じゃないよ。だってピカソの絵のよさを分からない人もたくさん美術館に足を運ぶじゃない。それで、アナタの可能性が広がれば素晴らしいことだよね。

残念ながら、島根県立美術館での展示は終了しているんだけど、今回見逃してしまったという同志にも、まだチャンスはあるんだ。4月(2003年)下旬から釧路芸術館、9月下旬からは川崎市市民ミュージアムと各地を巡回するからね。展示作品は少なくなるんだけど、そんなことは些細なことさ。